ペチュニアの恋文
そんなユウには触れずに、俺は暫く病室から見える窓の外の景色へと視線を移していた。

すると、再びユウがぽつりと口を開いた。

「蒼…お前さ」

「?」

「遥のこと、好きだろ?」

「……。急になに?」

「オレにエンリョなんか、するなよな」

思いのほか真面目な表情で見上げてきて、思わず内心で戸惑った。

「遠慮なんか…」

してない。とは言えなかった。

「お前、前は遥のこと好きだって言ってじゃん。オレとどっちが遥をお嫁さんにするか勝負だ…なんて言ってたこともあったよな?」

「………」

そう。以前はそんなことを言って二人で笑い合っていた。

でも、ユウの病気が見つかって。

入院することが決まった頃、俺は遥を避けるようになっていた。

だから、もう今更なのだ。

「昔のこと、だろう?」

出来るだけ平静を装って、そう答える。

だが、ユウは納得いかない様子だった。

「昔から、お前はそういうヤツだよな。いつだってオレの一歩後ろにいて何でもオレに譲っちまう。争いごとが苦手なのは分かるけどさ。いいのか?それで…」

「別に…。そんなんじゃないよ」

目を逸らして否定するも、ユウはそれさえもスルーする。

「いつだったか…。お前が遥に花をプレゼントするって約束をしてたのをオレが横取りしちゃったことあっただろう?覚えてるか?」

思わぬ話を振られて、俺はユウを横目で見た。

流石に覚えていた。

(ペチュニアの花のことだ…)
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