【完】壊愛ー姫は闇に魅入られてー






「流君。
 紬のこと、これからもよろしくお願いします。」


母の首が下へ向くと同時に、折り畳み傘の様にすんなりと、その強張った背中が丸まった。


流は、中途半端な気持ちで私を好きだと言っているわけじゃない。


それが少しでも、母に伝わっていたとしたら

長年一緒にいて、愛が冷えきってしまった夫婦生活の疲れは、私達の愛を見て、普通じゃないと分かってしまったのかもしれない。



「そんな頭下げられたら、俺本気で紬のこと連れていっちゃうかも、ですよ。」


「そうね……その方が紬は幸せかもしれないわね。」


今までの罪悪感のせいか、引き止める資格がない。と、少し悲しそうな顔を見せる母。



「それじゃあ、紬のこと、連れ去らっちゃおっかなー」


ーーグイッと私の肩を抱き、流がつま先を玄関のドアの方に向けようとすると。


父が振り向いて、今まで見たことない顔を見せた。


寂しい、行くな。


父が、そう言いたげな顔をしている。


今まで他人だと思いながら扱ってきた父の顔は、よく見るとシワがくっきりついていて、私はいつから父の顔をよく見ずに接してきたんだろうと、心からじわりと涙が溢れる。





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