蟻とくそ
ピコピコピコピコ、
ライン通話のコール音
ユキヤからだった
「もしもし?」
『よーじおはよう!
寝落ちしてた!ごめん!』
ユキヤの声
朝早くから元気な声
中学のときに毎朝早くから元気に部活の朝練に行っていた姿を思い出す
『本当は昨日電話したかったんだけど!
よーじ寝てた?』
「大丈夫、起きてたよ。今外でぶらぶらしてる」
さすがに空港で夜を明かしたことは言わなかった。
『なら良かった!
あのさ、昨日よーじ、帰りに何となく元気がない気がしたから
九州でいじめられてたりするなら俺に言えよ!』
思わず顔が綻んでしまう。
「うん、大丈夫だよ。
元気なかったのはユキヤと離れるのが寂しかったからだよ。
僕、ユキヤがいちばん好きだからさ」
昨日から色んなことがありすぎた。
喪失感と絶望感
それでも、僕は僕なりのこたえを見つけていく。
僕の隣には、もう、当たり前のようにユキヤはいないけれど
せめて、大好きなユキヤには、ごまかしたり嘘をつかずに、正直に向き合っていきたい。
『そーだな!俺もよーじがいちばん好き!
次は俺が遊びに行くよ!早くにごめん!またね!』
通話が切られる
胸の奥がちくりと痛む
ユキヤが言う好きが、僕の期待する好きじゃないことは分かっている。
それでもいい。
またね、という約束がある限り
僕もユキヤも一人じゃないのだから。