それは、ダリアな恋模様
「夏休み、どーする?」
「まず8月までに課題終わらせる」
「うーん」
「で、その後は遊びまくる」
「今年も無理なんじゃない?」
私の掛けた言葉に「うるさいなあ」と首元をはだかして風を送る彼。
その風によってゆらゆらと波打つくらいには、そのカーディガンの生地は薄手だけれど、それでも酷く暑そうに感じる。
パタパタと彼の手の元で揺らめく灰の色。それをなんとなく視界に捉えていたけれど。
「あ…、赤になった」
彼の声に、目の前に佇む赤色のランプを見て足を止める。
「ここの信号長いよね」
「こんな田舎の道に車なんて通んないだろ」
「渡ろう」と言いたげに向けてくる視線に気が付かないフリをすると、誰が見てもあからさまなその対応に彼は気だるそうに口を尖らせた。
「真面目ちゃんかよ」
「今更気づいたの?生粋の真面目っ子じゃんか」
「はいはい、そりゃ失礼いたしました」
「……水戸和、制服汚れちゃうよ」
人様の敷地を囲うコンクリートの壁に背中を預けた彼、水戸和 輪(みとわ とおる)はカーディガンのポケットからオレンジ色のハードケースが取り付けられたスマホを取り出して、鼻歌交じりに弄り出す。
「別に気にしねぇよ」
整えられてない伸び切った爪で何度か結晶画面が操作されると、可愛らしい女の子の声でゲームの制作会社の名前が叫ばれて、やがて軽快な音楽が流れ出した。
「カーディガン、ないと困るんじゃないの?」
不意に、その瞳とかち合う。それはきっと5秒間にも満たなかったけれど。
「…ソーデスネ」
私が色素の薄い、まるでガラス玉の様なソレに魅入ってしまったことを、多分水戸和は気がついている。
首を振りながら片耳に人差し指を突っ込んで。「お前はいいママになるよ」と、茶化し半分で行われた一連の流れも、すぐに調子を取り戻すためのものだと思うから。
こっちに向けるように促して、少し汚れた灰色の背中をはたく。
触れただけでも分かるくらいには蒸れていることに気がついて切なくなった。
「ほんと長ぇよな、この信号。渡る?」
「だから、私はいい子ちゃんなので」