い ち る に 群 青
海風と夕日と光り煌る海を背に、いつの間にか肩甲骨あたりまで伸びた私の黒髪が風に攫われていた。言葉もきっと、届かない。
「待ってろって言っただろうが。なに先帰ってんだブス」
「……昴成(こうせい)、」
昨日の夜、質素な夕飯を私の部屋まで持ってきてくれた彼は確かにそう口にしていたし、それに私も頷いたことを思い出す。
すっかり頭から抜け落ちていた約束を再度拾い直して昴成を見た。不満さを顔に貼り付け上下する肩を落ち着かせようと大きく息をする彼。
腐れ縁、幼馴染み、友達、兄妹、なんだろう。私と昴成の関係はそのどれでもありどれでもない曖昧さを持っていた。
それに棘が荒目立ちする口の悪さと目付きの悪さを除けば、彼はとても優しい人。
「こんなところで何してんだ」
「別に、海見てただけだよ」
「……物好きだな、お前も」
その言葉の背景にはきっといろんな意味が込められているような気がした。それにそっぽを向いて気づかぬフリをした私に昴成は皮肉めいた笑いを溢す。