い ち る に 群 青



 「嫌になんねぇの…?俺がお前の立場なら見たくもねぇけどな」

 「誰も何も、悪くないじゃない」

 「馬鹿か。“全部”が悪いんだろ」



 そう言われても何故だろう…ピンと来ない。

 昴成が滲ませる若干の怒気に触れつつ、私は無意識に噤んだ。普通の何が悪いのだろうかと、そう思いながら。


 息苦しさをもたらす原因を、怖くて探ることをしないまま私は17年を生きてきたから。昴成の言うここに住む人達の悪さを理解出来ずにいた。



 ———何度目か、数えることをやめた〈その日〉を明日に控え、それでもなお私の頭は思考を絶っていた。考え始めればその先は地獄だと、知っているから。



 「ここに住む奴等は、全部お前に押し付けてんだよ。そのくせ自分達は安全で楽なところで高みの見物しやがる」

 「……昴成、やめなよ」

 「お前は、仕来りとか言う綺麗な言葉に騙されんな。自分が奴等の願いのために良いように使われてることに気付け」



 歩み寄り私の手前で靴を鳴らす彼は、苦しそうに言葉を続けた。どうして昴成がそんな声を出すの、そんな顔をするの、と言いたくなるくらい。



 「—————お前はどこにいるんだよ、」



 掴まれた腕がキリッと痛みを伝達していって、私の頭はほんの少し揺さぶられる。

 ムラがなく上手に茶に染まった髪が、陽の光を受けて黄金に色付く。その瞳もまた奥に美しさを宿していた。


 「(綺麗、)」


 私を引き戻す昴成の腕、その姿に純粋な感動を覚えた。






 —————結局、昴成の言葉に答えることは出来なかったけれど。


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