トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
兄が何かを察したように考え込むが、私には何のことだかさっぱりわからない。


「釣るって……どういうことですか?」


「ん? 盗聴器使って犯人を呼び寄せるの。」


盗聴器を使う? 呼び寄せる?


「出てきてって言っても、来てくれませんよ?」


「ははっ、そりゃそうだ。犯人がどうしても来たくなるように餌を撒かないと。」


篤さんが、兄を振り替えって言う。


「瑞希を囮に使うのか? 危険すぎるだろ。」


「瑞希ちゃんには危害は及ばないよ」


「そうは言ってもな……。


それに、もうひとつ現実的な問題がある。」


兄はわたしをちらっと見た後、言いにくそうに続けた。


「例えば、犯人に向けてわざと知らせるための台詞やら台本を考えたとして……


瑞希の演技力は期待できないぞ。」


む。なんて失礼な。


兄に抗議の視線を向けると、気まずそうに目をそらす。


「そうだねー。瑞希ちゃん、確かに演技とか向いてないって言うか、……稀に見る下手さだよね。あはは。」


篤さんにもそう思われていたなんて。しかも笑ってるし。


「そんなにひどいんですか。」


「気にしなくていいって。その嘘がつけないとこが君の良さなんだしさ。


それに、演技なんかしなくていい。餌を撒くって言ったけど、撒き餌は俺だよ。だって犯人は俺のファンなんだろ? 」
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