トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「それじゃ、ツンデレ拓真シェフの気まぐれフルコースに乾杯!」


篤さんが満面の笑みでグラスを掲げる。


「俺それに乾杯するの嫌なんだけど……」


「違うだろ、そこは。『普段はこんなこと、絶対にしないんだからねっ!』て言ってくれないと。」


「やだよ。ほら、冷める前に食え。」


「ふふ。その態度が素でツンデレでウケるな。


とりあえずかんぱーい!!」


軽くグラスを合わせて始まった夕食の時間。


兄が作った料理を3人で囲んでいる時間は幸せで、どんなお店の料理よりも美味しくて。憂鬱な事件も、失恋の痛みもこのひとときだけは忘れられた。


篤さんは、兄が初めての撮影の時に緊張してセットを壊した話や、兄が高校生の頃にファンクラブができていた話をなどをしてくれた。


その度に兄はムキになって反論したり、篤さんに良いようにからかわれたり、普段の大人びた姿とは全然違う表情を見せる。



そういうリラックスした兄を見ていると、楽しいのにどこか泣きたくなるような不思議な気分だった。



食事の後は兄と篤さんの二人で、作戦会議と言って別室に行ってしまい、今はひとりだけの時間を過ごしている。


私は兄の作ってくれたノンアルコールのカクテルを片手に、幸せな時間の余韻に浸っていた。
< 109 / 235 >

この作品をシェア

pagetop