トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「綺麗ですね……金魚がこんなに幻想的に見えるなんて」


夏限定で開催されているというそのイベントでは、金魚がアートのように展示されていた。暗く藍い空間の中で、複雑な形の水槽が色とりどりにライトアップされて浮かび上がる。


「あんなに照明当てて大丈夫なのか? 何匹が浮いてたりして。」


篤さんが元も子もないような感想を漏らすので抗議の視線を送ってみるけど、全く意に介してない様子だ。


辺り一面に非現的な美しさが投影されていて、いつまでも眺めていたいような景色。


私たちの会話は犯人に聞かれても支障の無いものに限られるので、話題は自然と篤さんの選ぶものに任せた。


「……悪いけど、何となく瑞希ちゃんは運動とか苦手そうだよね」


「えー? 私ずっと空手やってたんですよ。父の薦めで。」


「意外だな!」


「急所の場所とかも色々父に教わって。こう……」


喉やこめかみを突く仕草をすると、篤さんの顔がひきつって面白い。


「笑顔で言うなよ、物騒だなぁ……

ってことは、拓真も空手やってたの?」


「いえ、兄は……子供の時は暴力的なことは苦手で。」


それは、多分兄の幼少期に原因がある。


両親は昔の兄について、私に多くを語らないまま亡くなってしまったけれど、語られないということ自体が、何か良くない事があった証拠に違いない。
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