トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
きょとんとする彼女に、言葉を続ける。


「でもそれって危険じゃないか?

役割が無ければ自分もいないような感じ。自分の欲求にも、幸、不幸にも関心が無くてさ。


あいつ、君の兄って立場があるから生きていけるような、そういう危うさがある気がするんだ。」


「え? そんな、まさか。


兄は私と違ってしっかりしていて……。」


「しっかりしてて、優しくて、瑞希ちゃんを守れるような。そういう理想像があるんじゃないか、拓真の中で。


それ以外の自分を認めようとしない。


そういう規範が無いと、自分の在り方が分からない奴なんだよ」


暗くなった車内でも、気配で彼女の困惑が伝わってくる。


「兄がそんな苦しい生き方をしてるって言うんですか?

兄はそれほど感情を表に出すタイプじゃないけど、よく笑うし、そんな危うさなんて……。」



「あいつ、君の前では強がるから分かりにくいかもね。

今の拓真が不幸だって言いたいわけじゃないんだ。というか、拓真が今の拓真でいられること自体が奇跡だと思う。

君と、ご両親の起こした奇跡だと。」


……あいつの幼いころを思えば。とまでは言わなかった。
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