トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「申し訳ありませんが打ち合わせがあるので、私はこれで。」


その場を去ろうとすると「サインも良いですか?」と言われ、彼女の手帳に馴れないサインを記入する。

「せっかくだから握手も」と依頼されているうちに、犯人の背中が視界から消えてしまう。


急いで追いかけながら、あの賑やかな女性が先程の視線の主だろうかと思い返す。視線を受けた時の感覚とあの女性の雰囲気は異なっていたような気がする。が、今はそれどころではない。


まずは瑞希の鞄や衣装を確認する。それらは関係者用のロッカーに入っていて、特に持ち去られた形跡はない。


瑞希に心の中で詫びながら彼女の鞄を開けると、ほんの少しの違和感を覚えた。何だろう、何が違う?


瑞希の携帯電話や化粧品、貴重品はそのまま残されている。もう一度心の中でごめんと言って念のため携帯を調べると、最近使ったアプリとしてSNSやブラウザ、データ転送などが表示された。



データ転送?



嫌な予感がする。瑞希のSNSアカウントを見ると、つい先程の時間に最近の投稿がされている。



“今日は撮影だよ。今回の衣装はこれ!ドキドキするなぁ。みんな応援してね。”


衣装である水着や浴衣の写真とともにコメントが表示されている。


何だこれは。



瑞希は内部情報を勝手に漏らすようなことは絶対しない。そもそもSNSを熱心に更新するタイプでもないはずだ。


さらに新しい投稿。


“有名なイケメン俳優さんとデートしちゃった!嬉しい!”


画像として、篤と瑞希のメッセージ画面がアップされている。



瑞希の名前で篤の個人情報を拡散するのか。それを瑞希の悪事として仕立てるつもりか。


早く止めなければ、瑞希はもちろん篤にも取り返しのつかない影響が出る。
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