トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
13 祈り
黒須 瑞希は震えながら、それでもありったけの力で叫んだ。


「うちには優しい両親がいて、兄も私も大好きだったんです。

でも亡くなってしまって、私たちにお母さんと呼べる人はもういない。あなたはお兄ちゃんの母親じゃないから。」



生まれて初めて本気の敵意と向き合った。目を見るだけで怖い。

でも、お兄ちゃんはもっと怖かったはずだから。長い長い間ずっと怖かったはずだから。


今は私がお兄ちゃんを守るよ。



「あなた、何なの

わかったふうな口をきいて。」


兄の母だという人の異常さはすぐに分かった。

これは子供を見る目じゃない。まるで恋人を詰るような目で兄を見てる。



その人は、兄を産んだという年齢には見えないような若さで、長い髪と青白い肌が印象的だった。こんな表情をしていなければ、きっときれいな人なんだと思う。


「みずき……逃げて……」


倒れている兄が、何も抵抗しなかった理由は分からない。


だって、私ですら簡単に押さえられるほどの細い腕。


「私は兄のたったひとりだけの家族です。

分かったふうなんじゃない。兄のことをもっと分かりたいんです。」


私は空手の試合以外では初めて人に手をあげた。

手首を払ってナイフを落として後ろに捻る。足をかけて転ばせて、上から乗って押さえた。


「血の繋がりもないのに家族?

妹って言いながら、女の顔でうちの子を見ているくせに。」


「そうですよ。血の繋がりなんかどうでもいい。

血が繋がってても、そうじゃなくても、私がお兄ちゃんを好きなことに変わりないんです。」
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