トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
そんな方法、私にはひとつしか思い付かないけれど、実行する勇気がない。


水が無ければナースコールと言っていたから、看護士さんにお願いすれば、きっと飲ませてくれるんだろう。


飲ませてくれる?


美人の優しい看護士さんが兄にお水を飲ませる様子を想像してしまって、絶対にそれは避けたい気がしてきた。


「瑞希?」


固まった私に、兄が問いかける。


兄に歩みよって、とりあえず気を落ち着けるために水を飲む。


「?」


怪訝な兄に、


「少しだけ我慢して」


と伝えると、もう一度水を口に含んで兄の口に近付けた。


「……っ」


驚いた兄の様子に最初は水を溢してしまったけれど、だんだん兄が水を飲んでくれる気配がした。口の中が空になって唇を離すと、目が合ってしまい気まずい。


「他に、方法が分からなかったからっ

よこしまな気持ちじゃなくて。」


横を向いて言い訳のように言い放つと


「よこしまって。今笑うと腹が痛い。」


傷を押さえる兄。笑わせるつもりじゃないのに。


「……フラれたあとで、こういうことするの未練がましいでしょ。言い訳くらいさせて。」


そう言うと兄は目を伏せて


「瑞希がそんなことを気に病む必用はないんだ。

全部、俺の問題だから。」


と言った。

俺の問題ってどういうこと?


何となく視線を外して考えていると、再び指先に兄の手が重ねられる。



「まだ喉渇いてて、水、くれると嬉しい。

よこしまな気持ちも……無いとは言えないけど。」
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