トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
その問いかけにどんな返事をしていいか分からなくて、代わりにもう一度水を含んだ。


兄の顔にかからないように髪を耳にかけて、今度は慌てないで水を運ぶ。さっき兄の体は冷えきっていたけれど、こうして触れる唇には暖かさが戻っている。それだけでも泣きたいほど安心した。


「……んっ」


こくこくと水を飲む音がする。ひとくち、もうひとくちと水を口に含ませる。


水を飲み終えた兄に「ありがとう」とお礼を言われても、胸に詰まる想いが苦しくて、目も合わせずに「別に」としか言えなかった。


その後、検温や止血の確認などの処置をするというので、一度帰宅することにした。もう、外は少しずつ明るくなり始めている。


自宅に帰っても気持ちの整理がつかないことばかりで眠れないので、まずは兄の着替えを準備する。


兄の部屋に入ると、この前に無理に潜り込んだ兄のベッドが目に入った。あの日からまだ数日しか経ってないなんて信じられない。


何となく淋しくなって兄のベッドに勝手に飛び込むと、本棚には法律関係の本が数多く並んでいるのが見える。


その本の中に、“養子縁組”や“血縁関係と法律上の親子”といった内容が含まれており、兄が自分自身の為に調べていたんだと気が付いた。


兄は本当はどんなことを思っていたのかな。家族として一番身近な存在なのに、私は何も知らない。
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