トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
翌日の昼過ぎに病院に行くと、兄はかなり回復して上体を起こせるまでになっていた。


しばらくすると篤さんがサングラスで顔を隠してお見舞に来た。手には不自然なくらい大きな花束を持っている。


「こっちは死ぬほど心配したっていうのに、ここに来てみれば」


と、兄をじろっと睨んで花束でぽふぽふと叩く。


「さっきナースステーションで、お前の病室を聞いたんだけど。

そしたら可愛いナースのおねーさん達が、次に誰がお前の包帯を替えるだの、検温するだのとか言って順番を取り合ってきゃっきゃしてるわけ。

何なのお前は」


「あはは。そんなわけないだろ。」


兄を笑っているけど、篤さんの話は多分本当だ。私も今朝ここに来たときに、看護師さんたちが「モデルのTAKUMAやっぱ格好いいんだけど」と言ってるのを聞いた。


篤さんは演技っぽくため息をつく。


「こいつのこういう無自覚なところがムカつくんだよな。わかるだろ? 瑞希ちゃん。」


「あー……、確かにそうですよね。」


「何だよ、瑞希まで。」


兄は、私の同意に少し拗ねた顔をした。
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