トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「お前が休んだ分の仕事まで回ってくるから、こっちは忙くなるんだよ。

さっさと直して、さっさと復帰しろ。」


多分、篤さんが本当に伝えたかったのは最後の一言だけ。


「うん、悪かったな。……いろいろと、心配かけて。」


篤さんは「ばーか」と言って帰っていった。篤さんは事件のことには何も触れなかった。


兄は篤さんの遠ざかる背中を暫く眺めていたけど、やがて言いにくそうに私に声をかけた。


「悪いけど、あの本どっかに片付けてくれる?」


気まずそうに、エッチな本を指さす。


「もー……。」


勿論、これが篤さんのイタズラだとは分かっている。

篤さんってほんとにお兄ちゃんをいじるの好きだなぁ、と本を手に取り、手近な引き出しに入れようとしたけど、


表紙に “禁断の関係 妹の濃密…………” その先は目で追うのも無理なタイトルを見つけて、


やっぱり兄の足元へ投げつけることにした。


「うわっ、俺に怒るなよ……。」


「知らない怒ってない」


「いや、それ怒ってるだろ……」


そんなふうに、兄の入院は2日目にして賑やかに過ぎていった。
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