トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
渋々そのカードを兄に手渡すと、兄はその内容に驚くこともなく、1分もかからずに今日のお礼とやんわりとした断りのメッセージを送った。


「やっぱりモテ慣れてるんだ、お兄ちゃん。」


「何だそれ?」


「そういうとこだよー。喜んだり困ったりしないで、馴れた感じで断って。」


「いや、ちゃんと有り難いと思ってるし、これでも困ってる。どうやって返せばいいかわからないから、いつも事務的な返事になって。」


「『いつも』って言った今!

ふーん、いつも、ねぇ。こんな返事を返すのはおにいちゃんにとっては日常なんだねぇ。女泣かせだなぁ、知らなかった。」


「こんな仕事だから、実際より良く見えるだけだろ。」


踏み込んで聞くと兄は気まずそうにしたものの、否定はしなかった。

堅物の、料理好きの兄と思っていたけれど、私の知らない顔がたくさんあるんだなと思う。



でも兄の周りにいる誰もが、兄が独りで抱えている孤独を知らない。




「だいたい瑞希だって、あつ……」


「え?」


「何でもない。


瑞希に近寄る男は、義父さんと俺で結託して追っ払ってたからなぁ。

ちょっと脅したくらいで逃げるような奴じゃ駄目だろうっていう暗黙のルールで。」


「何それ知らないんだけど。」


「言ってないからな。」


「ひどい!もう今は止めてくれたんだよね、それ。」


「もちろん、継続中。義父さんの分まで。」


「自慢気に言わないでよそんなこと。お兄ちゃんが怖い顔したら、ほんとに怖いんだから。みんないなくなっちゃうじゃない。」


「今のところ一人だけかな。潜り抜けたのは。」
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