トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「その一人って誰? 」と聞いても、名前は教えてくれなかった。


その後も続々とお見舞いに来る人が続き、いつの間にか病室はお花やお土産で溢れている。


一週間ほどで兄は松葉杖で歩けるようになるまで回復して、その頃には弁護士の人が頻繁に訪れるようになった。


大学の先輩だというその人に、兄が事件の後処理を任せたそうだ。その人との面会中は私は部屋に入れて貰えないので、詳しいことは分からないけれど。


「まだ回復してないのに、そんなに働いたら体に負担かかるよ。

私に手伝えることがあれば代わるのに。」


「無理の無い範囲でやってるから大丈夫だよ。

瑞希は被害者だし、未成年だからこんなことに関わるのは駄目。」


兄だって被害者なのに、何度聞いてもその点だけは譲らない。


今だって打ち合わせをしていて、私は病室の外で待っている。暇なので、前に篤さんが持ってきた豪華な花束から萎れてしまった花を抜いて、小さくなった花束を花瓶に活けていた。


「あれ、瑞希ちゃん何でこんなとこいるの。拓真は?」


篤さんだった。あの日以来仕事が忙しくて病院には来ていなかったので、久しぶりに会う。


篤さんに病室の “面会謝絶” の札を示して、弁護士さんとの打ち合わせについて説明した。


「せっかく来てもらって申し訳ないんですが、兄には会えないかも。」
< 161 / 235 >

この作品をシェア

pagetop