トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
兄は「こっち」と言って私の手を引き、兄が腰かけているベッドの隣に私も座った。


「改まってお礼とか言わないで。夏休みで暇なだけだもん。」


「でも、ありがとう。」


兄は私の背に手を回して、優しく包みこむように抱き締めた。顔を肩に乗せるので、兄の髪が首筋に当たってくすぐったい。


「ど、どうしたの? 」


「ごめん。少しの間でいいから甘えさせて。」



この手は私に甘えているの? と思うと、喉の奥が締まるような切なさで溢れた。


私のことは妹としか見れないと言ったくせに、不意打ちでこんなことするのは、本当にずるい。


客観的に見たって酷いと思うし、友達の恋愛相談でそんな人がいれば、絶対止めといた方が良いって言う。


それでも、圧倒的な嬉しさで私は少しも動けずにいた。兄は真面目な顔をして、天然の女泣かせなのだ。そんな人を好きになったのだから仕方がない。


「ありがとう。」


最後におでこにキスまでして、今日の兄は絶対、変だと思う。


それが分かっていたのに、ドキドキした気持ちで他が見えなくなって、兄のサインを見逃した。



この時のことを、私はずっと後悔している。
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