トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
篤さんは珍しく疲れきっているように見える。よく見ると疲れているだけではなくて、少し怒っている表情だった。


「それから、こんな時間の来客に無防備に玄関を開けるなよー。

相手を確かめるとか、チェーンかけるとか色々あるでしょ。」



「こんな時間って……ええと、今は何時ですか?」


「夜中の3時。」


「もう夜中だったんですか……すみません。私ぼうっとしてて。」


携帯を手に取ると、着信履歴が篤さんで埋まっている。篤さんは仕事が忙しいのに、私がぼんやりしていたからここまで来させてしまったんだ。



「とりあえずお茶でも……そこにスリッパあるので使って下さい。」



「ここでいい。っていうか君ひとりでいるときに、男を簡単に家に上げたら駄目だと思う。

俺でも、俺以外の奴でも。」


篤さんは靴を脱ごうとはせず、そのまま玄関先に腰掛ける。顔も口調も怒っているけれど、心配してくれているのは分かった。


「分かりました。……すみません」


「まったく、拓真の馬鹿がいないせいで、俺が心配性の兄さんみたいになるじゃないか。似合わねー。」


そう言って篤さんは困ったような顔で、再びため息をついた。
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