トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「それは拓真から?」


手に持ったままの手紙を篤さんが指さす。「見ていい?」と聞くので、悩んだ末に私の事を書いてくれている2枚目のページだけ抜いて渡した。


篤さんは時間をかけて手紙に目を通していた。


「拓真はあの弁護士と、用意周到に失踪の準備をしてたってわけか。」


「そうだったみたいです。

……篤さんは手紙の内容にはあんまり驚かないんですね?」


「俺にはこの手紙の内容に驚いたり、嘆いたりする資格はないよ。

拓真の過去も、君への想いも知ってたし、その上で君を奪おうとしてたんだから。


事件のことがあったにせよ、拓真がここまでのことをするとは思ってなかったけど……


でもこうなった責任の一端は俺にあるんだよ」


「いえ、お兄ちゃんが決めたことだし、篤さんの責任じゃないですよ……。」


「もちろん、一番間違ってるのはあの馬鹿拓真だと思うけどね。

瑞希ちゃんはとりあえず、拓真が手紙に書いているように怒ってみたら?

ほら、ヒーローみたいに暴れ回って拓真を助けだんだろ?」


篤さんは笑って両手を体の前にミットのように構えた。


「そこまでしてないですって。私、暴れ回るほど凶暴じゃありませんよ。」


「いいから。気に食わないことがあったら口に出しな。今日だけ大サービスで俺が代わりに聞いてやるから。」



お兄ちゃんに言いたいことなら、さっきから頭の中をぐるぐるしている。力の入らない手を握って、篤さんの手のひらをぽすっと叩いた。


「……お兄ちゃんの自分勝手」


「だな。勝手にいなくなってるもんな。」


「いくじなし」


左手も真っ直ぐ突き出して、反対の篤さんの手を叩いた。


「いいね。俺もそう思う。」
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