トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
玄関先で篤さんにお茶を出すのも、いつのまにか習慣になっていた。


「これは月桃茶って言うそうなんですけど、兄が前に買ってきてくれたんです。体に良いみたいですよ。」


「あいつ、女子力が無駄に高い奴だなぁ。

……でもこれ、夏っぽくてうまいね。」


篤さんは頑なに玄関で靴も脱がずに、少し話をして帰っていく。


「俺に何かできることある?

俺に甘えていいとは言ったものの、たまに様子見に来るくらいしかしてないからさ。」


「いえ、すごく忙しいのに来てもらってるだけて十分です。ご心配おかけしてすみません。」


「俺に心配されたくないなら、もうちょっと食え。

それ以上痩せると胸とか無くなるぞ。元々ちっちゃいんだから。」


「そっかぁ、困ったな……。」


胸を触ってみると、確かにちょっと減ってるかもしれない。


「いや、セクハラ発言には怒れよ……。ぼんやりしすぎでしょ。

たまには外の空気でも吸いに行く?俺にできることっていったらそれくらいしか。」


「いえ、今はいいです。

……あの、もし篤さんに時間があればで良いんですけど、送り盆の時に家に来てくれたら嬉しいです。

うちは両親が無くなってから毎年送り火を焚いてるんですけど、一人だと淋しいから。」


「オッケー。それくらいのことなら、遠慮せずにすぐ言ってよ」
< 179 / 235 >

この作品をシェア

pagetop