トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「最初に会った頃と比べると、少し伸びたね」
濡らした髪に、篤さんがぱさりと鋏を入れる。確かにとても手慣れた様子なんだけれど、躊躇なく髪を切るので少し心配になる。
「だ、大丈夫ですか?」
「任せとけって。前に美容師の演技指導で習ったことあるし。
……わりと毛先が痛んでるなぁ。ここ1ヶ月くらいの不摂生が見事に表れてるよ。」
「そう言われると、返す言葉もありません……。」
確かに兄の一件以来、髪のケアなんてまともにしていなかったかもしれない。
「やっぱりね。ついでに痛んだ毛先も整えとくよ。」
鏡越しに呆れ顔の篤さんと目があった。直接目を合わすのではないこの距離感は、いつもより素直に気持ちを伝えやすいのかもしれない。
普段はゆっくり話す時間は無いから、きっと今伝えるべきなんだ。
「兄がいなくなってから今まで、曲がりなりにもちゃんと私が生活できたのは、篤さんがいてくれたからです。」
「ん?」
「篤さんには、感謝してもしきれないほどです。
でも、そうやって篤さんに依存する私はとても狡いから。篤さんの気持ちを利用して、甘えたいだけ甘えて。
だから」
「だから何?
ほら、前髪も切るから目を瞑って」
篤さんは私の言葉には構わず、髪を切る手を止めない。目を瞑って、懺悔のように続きを言った。
「だから、もう家に来ないでください。
篤さんに気にかけて貰えて嬉しいですけど、こんなの、申し訳ないですから」
濡らした髪に、篤さんがぱさりと鋏を入れる。確かにとても手慣れた様子なんだけれど、躊躇なく髪を切るので少し心配になる。
「だ、大丈夫ですか?」
「任せとけって。前に美容師の演技指導で習ったことあるし。
……わりと毛先が痛んでるなぁ。ここ1ヶ月くらいの不摂生が見事に表れてるよ。」
「そう言われると、返す言葉もありません……。」
確かに兄の一件以来、髪のケアなんてまともにしていなかったかもしれない。
「やっぱりね。ついでに痛んだ毛先も整えとくよ。」
鏡越しに呆れ顔の篤さんと目があった。直接目を合わすのではないこの距離感は、いつもより素直に気持ちを伝えやすいのかもしれない。
普段はゆっくり話す時間は無いから、きっと今伝えるべきなんだ。
「兄がいなくなってから今まで、曲がりなりにもちゃんと私が生活できたのは、篤さんがいてくれたからです。」
「ん?」
「篤さんには、感謝してもしきれないほどです。
でも、そうやって篤さんに依存する私はとても狡いから。篤さんの気持ちを利用して、甘えたいだけ甘えて。
だから」
「だから何?
ほら、前髪も切るから目を瞑って」
篤さんは私の言葉には構わず、髪を切る手を止めない。目を瞑って、懺悔のように続きを言った。
「だから、もう家に来ないでください。
篤さんに気にかけて貰えて嬉しいですけど、こんなの、申し訳ないですから」