トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
ふと冷静にこの状況を振り返ってみると、俺は陰にコソコソ隠れながら、ゴミ捨て場からエロ本を拾い上げて笑い泣きしているのだから、どうしようもない変態にしか見えない。自分のあまりの格好悪さに笑えてきた。


こんなことろを週刊誌にでも目撃されたら、女性スキャンダルなんかより余程酷いことになるだろうなーと、他人事のように考える。


この部屋に入ってきた女性の様子を窺うと、俺には気付かないままペットボトルのゴミを捨てていく。


ペットボトルはさんぴん茶の空き容器だった。拓真がよく飲んでいるものだ。


俺はその女性が部屋から出るまでの間、彼女の顔を記憶するように観察した。


* * *


さっきの女性を見つけて声をかける。


「すみません、なんだか眠れなくて。睡眠薬とかお願いできたら嬉しいんだけど、駄目かな。」


「少々お待ちくださ……あ」


その人が俺の顔を見て驚いた瞬間を見逃さない。


「もしかして、俺のこと知ってくれてる?」


「はい、この前公開された映画見ましたっ。

映画も素敵でしたけど、実際にお会いすると凄く格好良いですね。」


「嬉しいな、あなたみたいな人に見て貰えて。」


「芸能人の方がいらしても、本当は勤務中にそういう態度で患者様に接するのは禁止されているんです。

すみません、ファンだったのでつい素が出てしまいました。」


良い人でよかった。心苦しくはあるけれど、この人に頼ることにした。本当に、ホントーにすみません。傷付けたりしないから、あなたの情報を少し分けて下さい。



「可愛いですね、ゆうなさんて。」


「私の名前……?」


「ネームプレートに書いてあるから。」


意図的に名字じゃなくて下の名前で呼んで、内緒話をするように笑ってみる。


「やっぱり、睡眠薬じゃなくてあなたとお話ししたいな。俺の部屋でお茶につきあってよ。

面倒な患者に絡まれたってことにして、我慢して。」


さっきまでの格好悪さに加えて、さらに不純なやり方しかできない自分を少しだけ呪った。
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