トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
確認したところ、ゆうなさんは拓真担当の看護士で、拓真はこの病院にいる間はずっとイタリア語を勉強しているらしい。

瑞希ちゃんに宛てた手紙の内容からして、イタリアの料理学校にでも通うつもりなんだろう。


ゆうなさんと連絡先を交換して、今後も拓真の動向を教えて貰うようにお願いした。彼女からどうやって情報を引き出したかついては、もちろん秘密だ。



ともかく、これで仕事をさぼってまでこんなところに来た意味があった。






それからは、仕事の合間に黒須家を訪れる日々だ。少し痩せた彼女をなんとか元気にしたいと思うものの、自分にできることの少なさがもどかしい。



世間が盆休みを迎えようとする頃、その日も彼女への土産を買いに事務所近くのカフェで買い物していると、社員の山瀬さんがこの世の終わりのような顔で俺を凝視していた。


「あんたに隠し子がいるって噂は本当だったのね」



「はぁ?かくしごぉ!?」



「ネタは上がっているのよ。このところ、色んな店で子供向けのスイーツだか何だかを買ってるそうじゃない。


しかも、買い物中は毒気がすっかり消えた慈愛に満ちた顔だって、あれは父性の目覚めに違いないって言うから。



私も実際見るまで信じないと思っていたけど、その締まりのない顔でパンダのカップケーキを買ってる姿は、もはや言い逃れできないわ。」




「ちょっと待って。父性とか慈愛だとか冗談じゃない。

俺は今、よこしまな気持ち100パーセントですよ。下心だけだから!」


「下心だけとか、自信満々に言わないでよ。

……ってことは、その買い物は女?」


山瀬さんが不信感たっぷりの目で俺を見る。


「当然。」


「あぁーもう、相手の娘いくつよ。淫行だけは本当に勘弁してよね。」


「なんだよ、全然違うって。心の汚れた大人はこれだから困るんだよな」
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