トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
17 Sweet Birthday
8月31日、黒須 瑞希は早朝の来客に叩き起こされるように目を覚ました。


「誕生日おめでとう。

悪いけど時間がないから、とりあえずこれに着替えてくれる?」


篤さんに洋服の入った紙袋を手渡された。


「え?まだ朝の6時前ですけど……

あの、これプレゼントですか?ありがとうございます……」


「こんなのはプレゼントのうちに入らないよ。

とりあえず着替えて。悪いけどあと10分くらいで出発しないと間に合わないから。」


「そうなんですか!?」


手渡された洋服を広げるとネイビーのシンプルなワンピースだった。オフショルダーの形で、少し長めのふわっとしたラインだ。

自室で肩紐の無いブラに付け替えて着替える。服のサイズがぴったりなのにも驚きだった。


時間が無いのですっぴんのままメイクポーチを持って、その他の荷物も急いでまとめて玄関に行くと、「座って」と言われる。


わけもわからずそうすると、篤さんは膝をついて私の足にレースアップのサンダルを履かせ、スエードのリボンを足首に巻いてくれる。


「自分でできますよ……?」


「俺がやる方が早いよ」


大人になってから誰かに靴を履かされると、こんなに落ち着かない気分になるのかとびっくりする。


「はい、完了。よく似合ってて可愛い。」


篤さんが私を見上げてにっこりと笑う。その笑顔にはまだ慣れないので、少しだけ目を合わせるのが精一杯だ。


「……ありがとうございます。」


「それじゃ、出発しようか。」


篤さんが差し出してくれた手のひらに、そっと右手を重ねる。


早朝だというのに、よく晴れた日差しが照りつけていた。


これが、夏の終わりの長い一日の始まり。
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