トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
車が首都高を走っているので、今日の行き先が気になった。


「どこに向かってるんですか?」


「それはしばらく秘密。少し遠い所。」


朝の6時に都内を走らないと間に合わない遠い所とは、一体どこだろう。


「……こうやって見ると、前髪切った分だけちょっと幼くなったか。」


篤さんが私の前髪に手を伸ばして笑った。


少し前まで伸びた前髪を流していたけれど、篤さんが切ってくれてからは普通に下ろしている。


あんなにさくさくと切っていたのに、髪は美容室で切ってもらったような仕上がりだった。選ぶ服のセンスといい、ヘアカットといい、篤さんはこういったことがすごく得意だ。


殆ど同じ仕事をしていても兄は女の子の服を選ぶなんて苦手そうだし、ましてや髪を切るのなんてできそうもないけれど。


「今日から成人と言っても見た目も子供っぽいし、精神的にも全然大人になれなくて焦ります。」


「二十歳なんてまだ大人の始まりでしょ。これからだよ、大人になるのは。

俺だってまだ全然大人になった気がしないし。」


「そうなんですか?意外ですね。

篤さんでもそう思うなら、兄もきっとそうだったんですよね。私にはずっと大人に見えていたけど。」


「あいつは全力で背伸びしてたのは確かだよね。それがいつのまにか板に付いちゃった感じ。」
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