トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「どうしたの、そんなにじっと見て。そんなに格好いいか?」


私の視線に気がついた篤さんは、いつもの飄々とした態度に戻って笑った。猫のように目を細めると、スッと整った鼻筋とシャープな顎のラインが印象的だった。


「ふふっ。本当に格好いい人がそういうこと言うのは、ずるいと思うんですけど。

でも篤さんは、格好いいって言われるのうんざりしませんか?」


「まさか!そんな奴いるの?

俺は誉め言葉はいくらでも欲しがるタイプだから、いくらでも格好いいと言って良いんだよ?」


茶化すように話すので余計に笑ってしまう。


「兄は、格好いいって言われる度に困ってたから。」


「あいつはそんな感じだよな。


『いえ、自分はそのようなことは。……恐縮です』

とか言いそう。」




篤さんは冗談で言ったと思うんだけど、兄の真似が似すぎてて体が硬直した。


声の高さまで変えて、俳優さんってこんなことまでできるのと驚くくらい、その話し声は兄に似ていた。


食い入るように篤さんを見つめると、篤さんは、私の目を隠してもう一度兄の真似をする。


『瑞希、そんな辛そうな顔をするなよ。今日は誕生日だろ?』


目を閉じると兄の気配まで思い出して、閉じられた瞳から涙が滲んで溢れる。
< 199 / 235 >

この作品をシェア

pagetop