トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「これくらいのことで泣くなって。」


ぱっと手を離した篤さんは、溢れる涙を手でぽんぽんと押さえた。


「だって、急にこんな。それにびっくりするほど似てるから……」


「そう言ってくれると役者冥利に尽きるよ。

でもほら、泣いてないで行くよ」


「ええと、行き先は……?」


「もう決めた。残念ながら奥地なんだよ。

だから急がないとね。」



急かされるように篤さんに手を引かれて車に戻った。さっき篤さんが真似た兄の声音はまだ胸の奥に響いてる。


ざわつく心を静めるように外の景色を眺めると、力強い自然の風景が見えてくる。


「沖縄にこんな深い森があるんですね。海のイメージが強かったけど、緑も綺麗。」



「せっかく沖縄来たのに、何で海じゃなくて森なんだよって俺は思うけど。」


その言い方に少し違和感を覚えたけれど、篤さんが言葉を続けたのですぐに意識の外に消えた。


「もう少し先に行くとマングローブが見えるから、南国っぽくなるんだけどね。辺戸岬から見える景色も良いし。」


辺りにはパイナップル畑が広がっていた。素朴な景色の先に海岸線が見えて、遠くに小さな建物が見える。



「到着だよ。

遠いと思ってたけど、来てみるとあっという間だな。」
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