トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
しばらくすると、トレイにグラスを二つ乗せて兄が戻ってくる。
そうやってお茶を出されると、まるでいつもの喧嘩の仲直りのようで。
「月桃茶……前に買ってきてくれたのと同じ。
これって沖縄のお茶だったんだ。」
「そういえば家に買ってあったっけ。」
こんな普段みたいな会話をしている場合じゃないのに。続ける言葉を必死に探していると、
「ごめん。悪かった、勝手に消えて。
まさか、瑞希がここに来るとは思わなかったよ。」
と告げられた。兄はこんがりと焼けた肌をして、いつもより伸びた髪が頬にかかっている。少しだけ変わった見た目が離れていた時間を物語っていた。
「来ない方が良かった?」
「もう会うことはないと思っていたから、瑞希に会えて嬉しいけど、
……嬉しいけど、もう一回別れなきゃいけないことを思うと、来て欲しくなかったな。」
兄は優しい微笑みを浮かべて、心を切り裂くようなことを言った。
泣くな、私。これくらいで泣いては駄目だ。せっかく篤さんがしてくれたメイクがくずれちゃう。
「お兄ちゃん……じゃ、ないんだよね、今は。
今さら拓真って名前で呼ぶのも落ち着かないし。その似合わない名字では呼びたくないし。」
「好きに呼べば良いよ、名前なんて。」
「全然良くない。呼び方一つで気持ちだって縛られるんだよ。
それなのに昔の母親の名字を選ぶなんて、どういうこと?
自分のことちゃんと考えてるの?」
「これでも考えた結果なんだ。
俺がどんな人間か忘れたりしないように。」
そうやってお茶を出されると、まるでいつもの喧嘩の仲直りのようで。
「月桃茶……前に買ってきてくれたのと同じ。
これって沖縄のお茶だったんだ。」
「そういえば家に買ってあったっけ。」
こんな普段みたいな会話をしている場合じゃないのに。続ける言葉を必死に探していると、
「ごめん。悪かった、勝手に消えて。
まさか、瑞希がここに来るとは思わなかったよ。」
と告げられた。兄はこんがりと焼けた肌をして、いつもより伸びた髪が頬にかかっている。少しだけ変わった見た目が離れていた時間を物語っていた。
「来ない方が良かった?」
「もう会うことはないと思っていたから、瑞希に会えて嬉しいけど、
……嬉しいけど、もう一回別れなきゃいけないことを思うと、来て欲しくなかったな。」
兄は優しい微笑みを浮かべて、心を切り裂くようなことを言った。
泣くな、私。これくらいで泣いては駄目だ。せっかく篤さんがしてくれたメイクがくずれちゃう。
「お兄ちゃん……じゃ、ないんだよね、今は。
今さら拓真って名前で呼ぶのも落ち着かないし。その似合わない名字では呼びたくないし。」
「好きに呼べば良いよ、名前なんて。」
「全然良くない。呼び方一つで気持ちだって縛られるんだよ。
それなのに昔の母親の名字を選ぶなんて、どういうこと?
自分のことちゃんと考えてるの?」
「これでも考えた結果なんだ。
俺がどんな人間か忘れたりしないように。」