トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
その時大きな風が吹いた。

突風が草木や花を巻き上げて、兄は吹き付ける風から私を庇ってくれた。


「大丈夫?」


「……うん、ありがとう。」


近くなった距離にどきりとして言葉を失う。兄は私を見ているようで、視線はやや下の方に落ちて目が合わない。


「お兄ちゃんどうしたの?」


「首のところ平気? 沖縄来て虫に刺されてない? 赤いけど。」


そんな覚えはないし、痒くない。


……あ。


首の赤い痕の理由を思い出した。


篤さんだ。


ずっと前に歯形まで付いて赤黒く広がっていたので、これでも目立たなくなってすっかり忘れてた。



「これ……隠してもしょうがないよね。

駄目なところを告白中だった訳だし。


これは、私の心が揺れた証拠。」


その言葉だけで多分意味が伝わったんだと思う。兄が私の髪を後ろに流して、首の痕に手を伸ばした。


「いつまでもお兄ちゃんのことしか好きになれないって思ってたけど、私の心は弱くていい加減だったよ。純粋じゃないの。


このままほっとくと別の人を好きになっちゃうよ。」



首筋に添えられた兄の指が熱い。そんな傷付いた顔をして、私が酷いことしたみたいじゃない。


勝手に居なくなったくせに。
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