トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「分かってるんだ。俺は何も言える立場じゃ無いって。」



兄は片手を広げて私の首を押さえた。あとほんの少し手に力が込められれば、息が苦しくなりそうなほど。


「ただ、そうやって生々しく見せつけられると……

自分でもどうしていいかわからなくなる。」


兄は伏せていた目を私の方に向けた。眉根を少し寄せた兄の視線に絡め取られると、もうそれだけで動けなくなる。


「俺のこういうところは、できれば瑞希に見せたくなかった。」


首筋に掛けられた片手とその低い声で、兄が今まで隠していたという怖さを、少しだけ感じ取る。


「……っ……」


でもそれは、私にとっては甘美な熱でしかなかった。

視線だけで甘い疼きが体を支配する。もっと、全部私にぶつけてくれればいいのに。




……でも、駄目。


そんな顔をしたって許さない。兄が私に降参するまで想いを伝えるって決めたんだから。濃く甘い霧を振り払うように、首を振って兄の手を乱暴に退けた。


「篤さんに守って貰えば良いって手紙に書いたくせに。」
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