トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
さっき転送してもらった写真をこっそり眺めていると、


「それ、いつの間にデータを手に入れてたんだ」


画面を覗き、渋い顔をする兄。ナルシストっぽいポーズで完全に道化を演じてる写真を見せると「見たくない……」と顔を覆った。


「嫌がるわりにサービス精神旺盛だよね。最後ノリノリじゃなかった?」


「空気に飲まれた気がする。その写真早く消してくれ。」


「嫌。一人で淋しくなったときに見るから。」


今はその事実を忘れようと思ったのに、ついうっかり言ってしまった。


一人で淋しくなったときに。


兄がそれについて何か言う前に言葉を続けた。


「ほら、こういうのも撮ってくれてるよ」


ケーキを食べさせ合う私たちの写真を表示した。大きく口を開けて間の抜けた私の顔は残念だけれど、それは紛れもなく幸せな時間を切り取った写真だ。


「可愛いな。これはあとで送ってほしい。」


写真を送る操作をすると、片付けを終えた兄が携帯を取り出して「瑞希」と呼ぶ。顔を向けたところ


カシャ、と急に写真を撮った。


「撮るなら言ってよ! すごい油断した顔してた。」


「ごめん、油断したとこを取りたかった。次はちゃんと撮るから、笑って。」


そう言われると、今度はどういう顔をして良いか分からずに困る。へらっと口許を緩めると、


「撮られるって分かると、瑞希は絶対そうなると思った」


と苦笑してシャッターを切った。


「瑞希の写真殆ど携帯に無かったんだ。

一人で淋しい時に見る写真、俺も欲しいから。」


その言葉にきゅっと胸が傷んだ時、もう一度兄が写真を撮る。
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