トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
兄が思案顔で私を見た後、普段と全く変わらない様子で言った。


「確かにどんな服装でも良いんだけど、それはちょっとな……足出し過ぎ。

沖縄でも夜になると外は冷えるから。」


「そと!?」


まさかこの後、外に出るとは全く想像してなかった。


もう夜も遅いし私はてっきり……そういうコトをするのだと思っていて、そういう想像をした自分がものすごく不純というか、欲求不満みたいで恥ずかしくなる。


「もう眠い? 疲れてるなら無理にとは言わないけど、できれば少し付き合って。」


この言い方!私が眠いって言ったら、普通に寝る気なんだ。


もうっ。


この様子だとさっき感じた気まずい沈黙も、私だけが一方的に感じてドキドキしていたに違いない。


私をシャワーに押し込めておいて、そんなのって普通なの?経験が無いだけに分からない自分が悔しい。


「全然眠くない。だ、大丈夫。」


「そうか」と答えた兄はクローゼットから長袖のシャツを取り出して、私のウエストに巻きつける。


「これでも何も着ないよりましだろ。

でも蚊に刺されそうだなー……どこかに蚊取り線香あったっけ……」


あくまでのんびりした様子でキャビネットから蚊取り線香を探し出して火をつけ、部屋の窓を開けた。




「ここは特等席だから」


部屋を出ると遠い波の音と湿った海風に包まれる。兄は広いテラスに置かれたデイベッドに腰掛けて、私を呼んだ。


「上を見て。今日は天気が良いからよく見えるよ。」


見上げると、圧倒されるほどたくさんの星が煌めいている。


「星ってこんなに明るいの? 東京とは比べ物にならないくらいたくさん見える……」


「これだけ明るいと驚くよな。

ここに来るまでは夜空は真っ暗だとばかり思ってたけど、こうやって見ると深い蒼なんだ。」
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