トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
兄の声は少し拗ねて甘えるような柔らかいトーンで、耳元で囁かれると、私はぎゅっと目を閉じてしまう。


「いきなり『それならキスして』とか言うか?

急にずるいというのはそういう不意打ちのことを言うんだ。」


そんな凄いこと私言ったっけ?

記憶を辿っていると兄は私の背中に少しだけ体重をかけて、柔らかく圧迫した。


「俺だけ一方的に覚えてるんだ。

言うだけ言って、自分は忘れるなんて。」


兄はため息混じりの笑いをこぼしているけど、私はずっと耳元で囁かれる声にドキドキして息苦しい。


「病院で水を頼んだらまさかの口移しだったし。」


「うっ……」


「あのときは、傷口が開いた気がする。俺の動機で。」


「嘘!?」


焦った私は、「ごめん」と兄を振り返る。


「嘘。水、美味しかったよ。」


兄は絶対私を翻弄して楽しんでるに違いない。私はそういう態度の兄には全く慣れていないというのに。


「傷はもう痛くない? 痕残った?」


「もう大丈夫。でも、痕は少し残るだろうな。」


と、シャツを捲って傷を見せた。お腹に引っ掻いたような縫合の痕が見える。


「きっと、すごく痛かったよね。」


恐る恐る傷痕に手を伸ばして撫でると、兄は少しだけ眉をしかめる。


「痛かった? ごめんっ」


「そうじゃなくて……」


兄は私のウエストに巻いたシャツを解いて、Tシャツの裾から手を滑り混ませた。


「えっ?」


兄の手は柔らかく私の腰からウエストにかけて撫でる。直接触れられると、手のひらの体温はくすぐったいような甘い熱に変わる。


「んっ……待って……ぁっ……」


「そういうこと。分かった?」


熱っぽく少し眉をしかめる寄せる兄と目が合うと、躰に広がった痺れは押さえようもなく高まる。
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