トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
篤:瑞希ちゃんと俺との関係性も捨てたもんじゃないんだぜ。


拓真:瑞希から聞いた。名前がつけられない関係だとか、敢えて言うなら共犯者とかよくわからないことを言っていた。


篤:共犯者ってあらためて聞くとなんだかエロいよね。


拓真:何の共犯なんだよ。瑞希を悪の道に引き込むなよ。


篤:今のところ、不肖の兄の更正に手を貸しただけだよ!


拓真:……それを言われると弱い。


篤:ともかく、せいぜい俺に奪われないように気を付けて。


拓真:奪わせるか、馬鹿。


篤:距離が離れてるけど?


拓真:絶対させない。距離があろうが、お前が瑞希を好きだろうが関係ない。瑞希は俺のものだ。


篤:お、強気なことを言うようになったね。


拓真:……で、それはそうとしてもう一度聞くけど。

冗談だよな?奪うとか物騒な話は。


篤:ははは、しつこくてウケる。ノーコメントだよ。




拓真は忌々しげに携帯見つめて、もう何杯飲んだか分からないコーヒーを煽る。


「早く日本に帰りたい……。」


その日の瑞希への電話は自然と長くなって、呆れるような言葉が返ってきた。


「お兄ちゃん、ホームシックになるの早すぎない? これから大丈夫なの?」


「瑞希、その呼び方あんまり直す気ないだろ」


「あ、……拓真」


恥ずかしそうに喉をつかえさせながら名前を呼ばれる。彼女が今どんな表情をしているのか手に取るようにわかった。

心のままに「愛してる」と伝えると、驚いた瑞希が何かを落としたようで物音が響く。


「だからっ。急に言われるとびっくりするんだってば。」


彼女が焦って怒る様子が尚更可愛く思えて素直な気持ちを表すと、


「眠れなくなっちゃうよ」


と小さな溜め息が聞こえた。日本は夜だから早く切らないと瑞希が可哀想だ。


「ごめん、今日はもう少しだけ瑞希の声を聞いていたいんだ。」


彼女の声を聞きながら、東京では月が見えているだろうかと想いを馳せて澄んだ空を見上げた。


Fin.
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