トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「それなら、もし瑞希ちゃんが拓真を好きだったらどうするんだ?


もちろん兄としてじゃなく男として、だ。」



「変なこと聞くな……。


そんなことはありえないが、もしそうなら俺は自分を抑える自信がないな。


だから、瑞希とは離れて暮らすことになると思う。」



「何でそうなる?


普通に考えれば、恋人になって万事めでたし、だろ。」



「俺は瑞希の兄で保護者代わりだ。


だから瑞希が、まっとうな道を歩んで幸せになることが一番の優先事項だ。


義理の兄と一緒になるなんて、道に外れたことだろ。


だから駄目だ。」



「世間体なんて大事か?


下らないよ、そんなこと!」


そんな些細なことを気にして、うじうじと悩んでいるのか拓真は。


昨日の彼女が見せた嫉妬の表情を思い出して、燃えるような情念が流れ込んでくる感覚に包まれた。



必要以上に彼女に感情移入していることを自覚しながらも、拓真の煮えきらない態度に怒りを覚えてしまう。



それに、もし二人が上手く行くなら、



この熾火のような感情は、無かったことにして終わらせることができるのに。



しかし、拓真は俺の挑発など意にも介さず、意外な言葉を続けた。



「大事だよ。とっても。


ごく普通のありふれた家庭がどれほど大切なものか、篤は知らないんだな。


当たり前のように幸せに育った奴には、分からない。

いや、分からなくていいんだ、そんなことは」

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