トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
拓真は、落ちている紙と筆を拾って、何かを書いた。


『藤堂 拓真』


しばらく見ることの無かった、子供の頃の拓真の名字…………



「この話は後で。夜ちょっと付き合ってくれ」



そう言って見上げる拓真の目は、珍しく不安そうに揺れている。無防備に俺を頼ってくることが嬉しくもあり、心配でもあり…………



「誘ってくれて嬉しいぞ。今夜は朝までだ!お兄さんに何でも話してごらん!!」



飛びかかって抱きつくことにした。



「ぐあ、やめろ、よせ!!」


もちろん、妙な悲鳴を上げて拓真は嫌がる。ひきつった顔が面白いのでさらに追い討ちをかけていると、



トントン



静かなノックとともにスタッフがドアを開けた。



「拓真くん、時間だよー」



拓真には俺が覆い被さって、回りには丸めた半紙が散乱している。その光景に、スタッフはさっとドアを閉めて気まずそうに出ていった。



「失礼しましたっ」



絶望的な顔でドアを見つめる拓真を見てると、笑いを堪えきれなくなった。



「ふふっ。



じゃ、また後で。夜のデートの場所と時間は送っておくから。」



「いい性格してるよな、ほんとに。



でも、何だ……ありがとう。」



拓真が予想外の殊勝なリアクションを返したので、もう一度抱きつこうとし、



…………今度は容赦なく蹴飛ばされた。
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