トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「忙しいのに、時間を作って貰って悪かった」


「よせ、よせ。拓真が素直だと気持ち悪い。


それに俺は、酒の肴に話を聞きに来ただけなんだから。存分に話してもらうよ。」



篤なりの照れ隠しなのか、そんな言い訳をしながらビール片手に肉料理をつまんでいる。



もし俺が篤だったら、瑞希に対して何の躊躇もなく好きでいられるのに……



でも俺は、俺でしかない。



黒須拓真、あるいは、藤堂拓真。



自分の立ち位置を噛み締めるように、篤に話を始めた。



「俺が藤堂の姓だった頃のこと、覚えてるか?


あの頃、みすぼらしい格好で痩せこけてた俺を、まともに相手してくれたのは、篤くらいしかいなかったな。」



篤の表情が、痛ましく歪む。
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