トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「その相手が俺だったら?」


昨日の光景がフラッシュバックする。ソファで瑞希に重なる篤。


それだけで体が焼かれるような感覚に襲われる。



「…………」



「俺、諦めるつもりだったんだ。


拓真の……大事な女だから。


でも、そんな腑抜けのお前には、もう遠慮しない。


本気でいかせてもらうよ。」


俺を正面から見る顔には、笑っているような、怒っているような、ぞっとするような光が瞳に宿っていた。


これが、いつも飄々として本心を悟らせない篤の本当の顔なのかもしれない。


「……駄目だ。妹に手を出すな。」


振り絞るように言うと、篤は口の端をつり上げて笑う。


「やっと本音が出たか。


でも、もう引くつもりはないから。


拓真は、せいぜい良いお兄ちゃんでも演じてろ。」


そう言うと、もう話すことはないとばかりに席を立ち、あっという間にその背中は見えなくなった。
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