トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
篤さんが目の前に跪いて、撮影が始まる。



眩しく熱く照りつけるライト。



私を見上げる視線は、それ以上に熱くて。



『私の心は罪で汚れています。


どうかその唇で、私の罪を清めてください。』



目をそらすことなんて出来なかった。切ない表情に吸い込まれる。さっきまで話していた篤さんとはまるで別人だ。



篤さんは私の手の甲にキスをして立ち上がると、腰を引き寄せた。



体が触れあった瞬間に、淡くて涼しげな甘い香りが立ち上る。



『恋は罪深きもの。

私と共犯者になっていただけますか?』



恋は罪深きもの……?



ゾクっとするような視線とその言葉に、何故だか兄のことを思い出した。



私の兄への気持ちも罪深きもの。



そう思うと撮影中ということを忘れて、涙が一筋こぼれ落ちてしまう。



どうしよう。勝手に泣いてしまって。撮影に影響してしまったら。



すると、篤さんは私の仮面を取り去り、涙を唇でそっとふきとった。小さなトリュフを私の口に入れ、そのまま指まで舌の上に押し当てて離す。



『…………』



甘くて苦くて、口の中の感覚が全身に広がっていくみたいだ。つい、視線を反らしてしまう。



でも、篤さんは私の顎を支えて軽く持ち上げ、視線を外すことを許さなかった。



篤さん自身の仮面も外し、私の唇をふさいだ。
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