トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「遅かったね、お疲れ。」



「うわ、あ、篤さん!?」



ビルの1階に、着替えを終えた篤さんがいた。まったく予想していなかったので、声が上ずってしまう。



「そんな驚かなくてもよくない? おばけじゃあるまいし」


ヘアセットも崩して普段着のカジュアルなシャツ姿に戻っている篤さんは、さっきまでの印象とは違う柔らかな雰囲気に戻っていた。



それでも、今の私にはある意味お化けより怖い。



「お、お、お待たせしてしまってたんですね。すみません。」



「ん?


俺が勝手に待ってただけだから気にしなくていいのに。


ていうか、何でそんなにかしこまってんの。」



不思議そうに私を見た後、何か納得した様子で



「今日はお子様には刺激が強かったか?」



からかうような口調なのに、優しく笑いかけてくる。



「はいっ。お子様ですから、ほんとに刺激強すぎましたっ。」



「あはは。この前は『もう子供じゃない』って強がったくせに。」



「…………!」



そうだった。前に会ったときの記憶も甦って、赤面してしまう。


「帰り、送るよ。体フラフラでしょ。」
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