トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
5 ストレイ・シープ
その日は、先日撮影したCMのショートムービー公開日。奥村篤は珍しく緊張した面持ちでスタジオに入った。


CMの評判を気にしている訳ではない。カメラの前では、自分にできる最高のパフォーマンスをしたのだから。


関係者が口を揃えてCMを褒めるのを、当然のように満足して聞いていた。



「凄い良い仕上がりじゃない、演出にも参加したって本当? 」


「また新しい魅力が開花したな! あそこまでキザなことできるのは篤くらいしかいないよ。」





そんなことよりも。


どうして今日に限って拓真とスケジュールが合ってしまうのか。

さっきからどんな態度で拓真に会ったら良いのかを決めかねている。


いつもなら用も無いのに入り浸っている拓真の楽屋に行くとこもできず、辺りをうろうろしてると、


「あつしー、拓真と仲良かったよね」


と女性スタッフに呼び止められ、びくっとして振り向いた。


「うん、そうだけどどうしたの?」


「なんか最近ね、拓真が待ち時間に書道みたいなことを熱心にやってて。あれって何なの?」


妹への恋心を押さえようとして、写経なんてしてるんだよ。馬鹿な奴でしょ。


なんて、当然言える筈もなく。
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