トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
そうだった。



『お前はせいぜい良いお兄ちゃんでも演じてろ』



挑発する意図もあったけれど、拓真の苦悩をえぐる言葉を意図的に選んで言った。


さらに追い打ちをかけるような、あのCMのショートムービーだ。俺が拓真なら絶対に許せない。


それなのに拓真は、まったく普段通りの顔で笑っている。


器の違いを見せつけられたようで、いっそ負け犬のような気持ちになるけれど。それでも、前言撤回をして謝るわけにはいかないんだ。


「……わん、わん。」


「うっわ、気持ち悪っ。」


テキトーな犬の真似をしてみたところ、予想通り嫌がられ、でもその態度がいつもと変わらないことに心底ほっとする。


「篤のこと、許せないだろって聞かれると……


そうだね。正直に言うと許せないんだ。」


静かな笑みを浮かべて拓真が言う。


意志の強そうな目が繊細に揺れた。拓真は慎重に言葉を選ぶように続ける。



「自分でもしかたがないと思う。でも、すっきりと割りきれる気持ちでもないし。


だから、許せないけど
だからって篤を嫌いにはなれない。


そういうことだ。篤なら分かってくれるだろ?」
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