トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
7 二人の夜
『キット今夜ハ、月ガ、キレイデスネッ!』


「全然だめ。……どうしてカタコトなんだ?」



瑞希は律儀に水着に着替えて風呂場に下り、セリフの練習を始めた。


その意欲は買うが、残念なことに笑ってしまうくらい不自然だった。全くの素人ということを差し引いても、瑞希の演技はお世辞にも上手いとは言えない。


まず、直立不動で拳を握っているのが決闘でも申し込んでるみたいで可笑しい。


前回のCMは内容はともかく出来映えはまともだったが、瑞希がどうやって前回の撮影をこなしたのか不思議でならない。


「こんな告白、普通しないもん!」


「それが芝居だから。確かに有名すぎるセリフを使ってるから、難しそうだけどさ。

まず、そのファイティングポーズを止めるところからだな。」


手を開いて浴槽に腰掛けさせる。自分も隣に腰掛けた。


「体は正面のまま、顔だけ俺の方を見て。…………そう、ちょっと見上げるぐらいで。

ほら、もう一度。」


『き、キット今夜ハ、月ガキレイデスネ』


「ぶっ」


笑うと瑞希が不貞腐れる。その表情も可愛いから困る。


そして、さっきからずっと目のやり場に困っている。
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