トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「なっ……」


何言ってるんだ、と言うのを必死に飲み込んだ。


俺なら安全だから平気って言ってる?


それとも、俺に何かされても平気って言ってる?


勿論そんなことは聞けないので、瑞希の頭をぽんぽんと軽く叩く。


(冗談はよせ。すぐ隣の部屋で寝てるんだから怖くないだろう)


ノートを見た瑞希が身を小さくしてうつむく。


「瑞希?」


見上げた顔には再び涙が滲んでいて、消え入るような声で「どうしてもダメ?」と聞かれた。


もう降参だ。瑞希にそういう顔をされたら、いつだって俺はかなわないんだ。


「分かったよ」


「ありがとう、お兄ちゃん」


瑞希は俺の部屋に入り、猫のようにするりとベッドに潜り込む。瑞希に引き摺られるように隣に寝るとシャンプーの香りが鼻をくすぐった。


香りの元を辿れば、すぐ鼻先に瑞希の長い髪が艶やかに流れていて、まだ少し濡れた髪が頬に触れた。



規則的な瑞希の呼吸。小さな肩。


その距離が近すぎた。


脈打つような衝動を無視して距離をあけると、布団の中でそっと指先が握られる。



触れ合った瞬間に自制の効かなくなった両手は瑞希を包み込み、自分の体に引き寄せた。
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