トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
ひと呼吸おいて、幼い頃に見た母親の顔がよぎる。


俺に瑞希を手に入れる資格はあるのか?




「ありがとう、瑞希。


うれしいけど、その気持ちには応えられないよ。


瑞希は大事な妹で、それ以外の関係になる気はないから。」


血を吐くような思いにもかかわらず、言葉はすらすらと続いた。透明な笑顔を張り付けて、瑞希の瞳から大粒の涙が溢れていくのを眺めていた。


「なんとなく……


そう言われる気がしてた。」


自分の心の痛みと瑞希が感じている痛みは同じだろうか。もしそうだとしたら、なんて深く彼女を傷つけてしまったのだろう。


「瑞希が一番大事なのは変わらないから。


俺にとって、誰にも代えられない大事な存在なんだ。」



「家族だから?」



「瑞希だからだよ。」



瑞希の眉が悲しげに歪む。こんな言葉では彼女の傷を余計に抉ってしまうようだ。


「聞いてもいい?


さっきなんで、あんなことしたの


女として見られてるかもって、期待しちゃうよ。」
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