トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「とりあえず朝食にしよう、な?」



食べ物で機嫌をとりなすというのは短絡的だが、瑞希はキッチンに広げられた食材に興味を持ってくれたようだった。

昔から瑞希は、喧嘩をしても美味しいものを口に運ぶと大抵機嫌を直してくれる。彼女の美徳のひとつだ。



「ひさしぶりにお兄ちゃんの本気の料理の気配がする。」


ダイニングテーブルから身を乗り出してキッチンを眺める瑞希は、小動物のようで微笑ましく可愛い。


「そこまで大したものじゃないよ。」


料理の仕上げを済ませて食卓に並べると、瑞希が小さな歓声をあげた。


瑞希に料理を食べて貰うのは、俺にとって至福の時間だ。美味しそうに食べる顔が見たくて、つい食事に凝るようになってしまった。


「美味しいっ。


お兄ちゃん、これ絶対お店開けるよ!


スムージーまで可愛くしてあるし、乙女な朝ご飯だね。」


蝶の形をしたライムを摘まんで、瑞希はご機嫌だ。乙女に見えるのは、料理を瑞希のイメージに合わせているからだ。もちろん口に出しては言わないけれど。
< 94 / 235 >

この作品をシェア

pagetop