トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
『犯行』という言葉に瑞希が怯えたように眉をしかめたが、昨日とは違い気丈にその不安を飲み込んだ。


「うん、気を付けるね。ありがとう。


……それにしても、お兄ちゃん、目のクマすごいよ?


ふふ。お兄ちゃんも酷い顔。」



「うっ」


暗に昨日寝ていないことを指摘されているので、身の置き所がない。慌てて目を擦るが、間抜けな様子を助長するばかりだ。


「篤さん来るの、午後なんでしょう?少し寝たら?食事の片付けはしておくから。」


そう言うが早く、瑞希は立ち上がって皿をキッチンへ運んでいる。


「ああ、ありがとう。でも、もう少ししたら篤を起こさなきゃいけないからな。まだ寝るわけには……」


「あはは。モーニングコールするって、二人ともどれだけ仲良しなの。」


普段はもちろんそんなことしていない。しかし、訂正しようとすると、


「起こすだけで良いなら、私が代わってかけようか?」


という篤の思うつぼのような気遣いを見せるものだから、


「いや、いい。絶対俺がかけるから!」


と勢いこんで断ってしまった。


「ぶっ。そんなに眠そうなのに電話したいなんて。ほんとにお兄ちゃんって篤さんラブなんだねー。」


「違うんだ……。」


瑞希に変な誤解を生んでしまったが、結果として、今朝初めての彼女の笑顔を見ることができた。
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