極上社長と結婚恋愛
 

体の後ろで震える手を動かし作業台の上を探ると、置いてあったスマホに指が触れた。
工藤さんに気づかれないように、そっと引き寄せ画面に触れる。

「俺の方が先に福原さんを見ていたのに、どうしてあんな男を選ぶんだよ」

そんなことを言われても。
工藤さんが私に好意を持っていてくれたなんて、知らなかった。
ずっと見られていたことにも気づかなかった。

だけど、正直にそう言えば、さらに工藤さんを怒らせてしまうかもしれない。

ふたりきりの狭いお店の中で、対峙したこの状況が怖くて仕方ない。

どう言えば工藤さんの気が収まるのかわからなくて震えながら小さく首を横に振ると、私が無言でいるのが気に食わなかったのか、工藤さんは近くにあった木製の什器を乱暴に蹴り上げた。

「どうしてって聞いてんだよ!」

大きな叫び声とともに、什器に置かれていたブリキの花桶が倒れる。
ガン!と大きな音をたて、花桶の中の生花が床に散らばった。


 
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